2024年10月14日

良い練習って?A

こんばんは!

本日は練習についてです。
前回の投稿からだいぶ間が空いてしまいましたが、大切なことですのでゆるゆると続きを書きます。

Aは「拍感が曖昧なことによりリズムが安定していない」という問題を考えてみたいと思います。
ちょっと専門的になりますが、よろしければお付き合いください。

拍というのは、一定の速さで続く「心臓の鼓動」のようなもの。特に指定がない限り、曲が始まってから終わるまで一定の速さで刻み続けるものです。書き言葉にすると難しげですが、要は歌と一緒にたたく手拍子のことですよね。
これを任意の周期で区切ったものが「拍子」です。一定の刻みを2つずつに区切れば2拍子、3つずつなら3拍子となります。そして、この刻み1つ分を「何の音符で考えるか」によって、「4分の3拍子」になるのか「8分の3拍子になるのか」などが決まってきます。

「4分の3拍子」という言葉には、「??分数の話かな?どういう意味だろう?」となってしまってわかりにくい面があります。あれは「¾」という分数の話ではなくて、「拍の流れを、3つずつ1グループとしてまとめて感じられるように区切る」「楽譜上では4分音符が1小節に3つ分になるように書かれる」という意味になります。つまり「4分(音符)が3」の方が言い方としてはわかりやすいのですね。

話が広がってしまいましたが、この「拍」、一定の刻みの感覚がとても大切です。
音楽を演奏する際には、楽器の種類を問わず、「拍の刻みを感じて、1拍を単位として音符の種類ごとに延ばす長さを数えながら弾く」ことになります。この作業をするから、音符の長い短いの区別が生じて、それがすなわち「リズム」になります。ですから、まずは拍の刻みを一定の速さで刻める、感じられることがとても大切なのです。
音楽に合わせて手拍子ならやりやすいですが、鍵盤を操作しながらこれをとなるととたんにハードルが上がります。

レッスンで感じることが多いのは、
@そもそも拍という感覚がまだ付いていないので、数えながら弾くことが難しい。もしくは1拍の速さが安定していないので、リズムが均等にならない。
A拍の感覚はあるが、手が忙しくなってくると意識から消えてしまう
B長い音符、延ばす場面で数え切れなくなって、短いまま先へ進んでしまう

など、よく出会う場面です。そして、なかなか弾いている本人は気づきにくいことも特徴です。
音楽のレッスンでは、最初の段階でかなり幅広い内容を学んでいくことになりますが、中でもかなり重要なことの一つがこの「拍、拍子、リズム」になります。
当教室のレッスンでも、この「拍、拍子、リズム」については、とてもしつこく学んで頂きます。中でも重要な目標は、「弾く前にどんな速さの拍にするのか決めて、カウントしてから、そのまま同じ速さで曲を始められるようにすること」です。

当たり前のようなことですが、とにかく生徒さんが最も気になるのは「何の音なのか」で、速さや音符の長さはあまり気にされることがありません。それは当然とも言えます。音符は楽譜という形で、目に見える形で目の前に現れますが、拍の刻み、拍の速さ(テンポ)、音符ごとの長短などは目に見えないので、わかりにくいのです。
こればかりは、体感を通してたくさん経験しながら身に着けていくことが必要です。

その過程で様々な問題が生じますが、それをその方に合わせて一つ一つ解決していきます。そして、一度できたことも繰り返して学びます。これは「スパイラルラーニング」という考え方ですが、定期的な定着確認は非常に重要です。

自宅での練習でも、「まず速さを決めて、その速さで手拍子してみる。拍子のカウントをその速さで数えてみる(3拍子なら123、123、4拍子なら1234のように)。そして、そのままの速さとカウントに実際の音がはまっていくように意識する」ということが重要です。
先ほども言及したように、なかなか弾いている本人は気づきにくいことも多いので、メトロノームを使って客観的に把握する練習は効果的です。
posted by yuki-sanui at 01:14| レッスン一般

2024年10月03日

バイエル

こんにちは!

バスティンメソッドの話を書いていこうと思います。

10年ほど前より、導入のレッスンではバスティンの「ピアノパーティー」シリーズを使っています。それは「必要な内容が、論理的なつながりをもって網羅されている」「子供の発達を見ながら臨機応変に対応できる」からです。
それ以前は様々な教材を使ってきましたが、今考えるとただ目先を変えていただけで、本質的なことを理解できていなかったと反省しきりです。そんな若い講師だった私は、日本におけるバスティンメソッド普及の草分け的存在である、藤原亜津子先生の講座に出会います。そこで大量のウロコを目からボロボロと落としたのでした。

現在も私は、藤原亜津子先生のもとでバスティンメソッドの勉強を重ねております。
その中で、メソッド自体の勉強と並行してピアノ学習の本質的な部分をも学んできました。というより、バスティンを学ぶほど、ピアノ学習に必要不可欠な本質が見えていったという感覚です。「教材は何であれ、何を教えるかが大切」という藤原先生の言葉の通りです。

ということで、バスティンメソッド、特にピアノパーティーを例に取り、どのようなことを学ぶのか、何が大切な基礎なのかについて考えていきたいと思います。

バスティンに入る前に、今日はバイエルの話です。

先日楽器店に出かけました。何しにいったかと言いますと、「バイエル」を探しに行ったのでした。バイエル…、私が講師になって25年ほど経ちますが、正直バイエルを使おうと考えたことはありませんでした。
自分自身はヤマハの幼児科で導入段階を過ごし、バイエル下巻でピアノ個人のレッスンを始めて、学生時代の終わり頃、90年代終わりから講師として少しずつ仕事を始めた世代です。バイエルに嫌な印象はないのですが、私が子供の頃に比べて多種多様な、カラフルな教材の山を前にして、積極的に選ぼうとはしなかったという所です。

今回は大人の方がバイエルをご希望されていたので、まずは楽譜を見てみようと思って出向いたのでした。
驚いたことに、バイエルだけで一棚あったのです。バイエル自体は1冊の本で収まろうとすれば収まる程度です。子供用に分冊のものもあります。でも、ボリュームだけでなく、色々な編集が入ったり、昔懐かしい絵柄のものから現代風の可愛らしいものまで、色々な種類のバイエルがたくさんありました。人気あったのですね…!

あらためて見てみると…
@本編に入る前の基礎練習がある。拍と拍子や音価について、やろうと思えばかなり念入りな訓練を重ねることができる。5指で弾けるものなので、ポジション移動のわずらわしさがない。
A講師とのアンサンブルが豊富。70番台以降は、音楽的な曲もたくさん。
B8分音符、付点のリズムなど引っかかり勝ちな内容も丁寧に網羅している。
C調の種類もバランス良く、♯と♭それぞれ2個ずつまで出てくる。
D60番台で急に難度が上がる。
Eヘ音記号の登場はかなりゆっくり。

良い所も、ちょっと不足を感じる部分も、あらためて全体を見渡すことができました。
そしてまた、このようにも思いました。
「バイエルは、大人にこそ向いている」

論理的で、段階を踏んでおり、重要な内容を網羅している。ただし、受け手の側に、それぞれの内容の意図をくんで、目的意識を持って取り組める力がある方が効果が上がる。また、手や指の発達、精神的な発達、その他子供の成長の様々な個性を考えると、子供たちにとっては「ちょっと進度が急」「ちょっと言葉が足りない」印象を受けます。

例えば、子供たちの集中力は、幼いほど短いものです。バイエルの課題はやや長く、集中できない子供が多数出るでしょう。

また一番大きな問題点としては、「ピアノを弾く前に育てるべき様々なこと」についての視点は全くないということです。それは当然なのです。バイエルが書かれたのは1851年頃、ショパンが亡くなって2年。ロマン派の華やかな時代。日本で言えば江戸時代の終わり頃です。汽車がどうにかこうにか登場したくらいの時代のもの。発達心理学が発展していく前の段階です。そこから150年ほどの間に、音楽や教育、心理学その他様々な研究が進展し、ピアノの教育法も大きく変化しました。

「バイエル」からは著者であるバイエル先生の意図がはっきり伝わってきますし、内容もバランスが取れていて良いものです。150年前の偉大なピアノの先生からバトンを受け取れることに、何だかロマンを感じます。これはクラシックの良さにも通じます。ただ、幼い子供の発達という面から見ると、そこはかなり色々な工夫をしていかないと、大方の子供たちにはマッチしにくい内容でもあります。

ということで現代に生きる我々は、バイエルの良さも理解しつつ、この150年の間に進歩した様々な先人の業績に学んで、よりよいレッスンを提供できるように努力し続ける必要があります。私にとって、そのきっかけであり基本となったのが「バスティンメソッド」、そして藤原先生との出会いでした。
posted by yuki-sanui at 10:44| バスティンメソッド